第23話 信長上京

 「上京するぞ」

 「お館様、今なんとおっしゃりましたか?」

 「京に行き、将軍、義輝に会いに行き、そのまま奈良、堺を見物してくる」

 「左様でございますか。して、お供は何人で?」

 「80人だ。人選はこの表に書いておいた」

 「かしこまりました」

 時は永禄二年(1559)二月。
 信長は上京した。
 せっかくの京ということで、いろいろ装いをこらした。
 特に信長は、のし付の太刀の小尻に車をつけた。

 ………………………………

 「ん? あの者たち何か怪しいな」

 清洲の那古野弥五郎の家来、丹羽兵蔵は、かなりの人物と見られる五、六人の
 者を頭とする30人ばかりの集団が京を目指しているのに遭遇した。

 「おっ、船に乗るようだぞ」

 さっそく後をつけることにした、兵蔵は、草津の志那の渡しで一緒に船に乗っ
 た。

 「そこもとはどちらの国の者ですか?」

 急に話しかけられビックリした兵蔵はとっさに

 「三河の国の者です。尾張の国を通ったときに、国の者たちが信長様を恐れ畏
  まっている様子を見て、こちらも心配しながらやってきました」

 「ふん、上総介の甲斐性もまもなくつきるであろう」

 そう相手は人目を避けるようにつぶやいた。
 それを見て、兵蔵は、ますます不審の思いを強くし、彼の宿のそばに宿をとっ
 た。
 そこで、利発そうな子供から事情を聞こうとした。

 「あの人たちは、京都に湯に入りにきたのかね?」

 「…」

 「私は三河の者だが…」

 「ふぅ、そうなんだ。安心したよ。尾張の人だったらどうしようか思って」

 「どうして?」

 「だって、あの人たちは、湯に入りに来たのではないよ。美濃の国から大事な
  使命を受けて、上総介様の討っ手として京に来たんだ」

 「…そうか」

 疑念が確信に変わった兵蔵は、彼らの伴の衆にまぎれて、近づいて彼らの話を
 聞こうとした。

 「…あとは将軍、義輝様のご決心次第だな」

 「あぁ、それさえつけば、鉄砲で信長を撃ち殺しても何の差しさわりもないだ
  ろう」

 (!!)
 
 信長暗殺計画を聞いた兵蔵は、驚きあわて、この情報を一刻でも早く信長に伝
 えようとした。
 しかし、彼らの宿を見届け、その宿の左右の柱に印をつけるのを忘れなかった。

 ドンドンドン

 「誰だ」

 「私です。清洲の那古野様の家臣、兵蔵です。一大事です! 金森か蜂屋に取
  り次いでください!」

 「分かった。しばし待たれよ」

 兵蔵はすぐに金森、蜂屋と対面し、今までのいきさつを残らず話した。
 その上で、信長に伝えた。

 「お前が兵蔵か」

 「ははっ」

 「奴らの宿を見ておいたか?」
 
 「はい、この目でしかと。家の門口には木を削って目印にいたしました」

 「うむ、でかした。金森、お前はその美濃衆と顔見知りだな」

 「はい、左様でございます」

 「早朝かの家へ行ってこう伝えよ」

 「かしこまりました」

 信長は金森に伝言を伝え、金森は早朝、兵蔵とその宿に向かった。

 バンッ!

 勢いよくふすまを開ける金森。
 
 「何奴!」

 急の訪問に驚く美濃衆に、金森が信長からの伝言を伝える。

 「夕べ、お前たちが上洛したのは、お館様もご存知であるから、こうしてわし
  が来た。お館様にごあいさつなれるがよい」

 自分たちの居場所を信長が知っていることと、突然の申し出に一同ビックリし、
 顔色は青ざめた。
 が、翌日、会う約束をした。

 「本当に信長が来るのだろうか?」

 まだ、自分たちの行動がばれたことに半信半疑な美濃衆は、約束の地、細川晴
 元の屋敷におそるおそる向かった。
 すると、屋敷にはすでに信長が来ており、美濃衆と対面し、話しかけた。

 「お前たちはこの上総介を討ち取ろうと上洛したそうだな。」

 「…」

 「ふん、お前たちのような若輩の者の分際で、この信長を狙うとは、蟷螂(と
  うろう)が斧のようだな。ふらちな奴らだ」

 「…」

 「それともここでケリをつけようか?」

 信長の勢いにすっかり呑まれた美濃衆はみな困った顔をしてただ恐縮するばか
 りだった。

 ………………………………………………

 「おい、今度京に上洛した尾張の織田信長っていう奴の話はもう聞いたか?」
 
 「あぁ、聞いた、聞いた。自分を付け狙った刺客に自ら会った奴だろ」

 「そうそう、そのとき、刺客たちにこの場でケリをつけるかとか言ったらしい
  ぞ」

 「うーん、それはちょっと大将の言葉としてはどうなのかなぁ」

 「確かにふさわしいもんじゃないな」

 「いや、そんなことはないぞ。若い者らしい言葉じゃないか」

 信長のこの言動を京の人々は、ほめたりくさしたりと二様に受け取っていた。

 四、五日後、信長は守山に戻り、その翌日は雨だったが、払暁には宿を発ち、
 相谷から八風峠を越え、清洲までの27里を踏破し、その日の午前4時ごろに
 は清洲に着いた。 

 <参考文献>
 ニュートンプレス:信長公記(太田牛一:原著 榊原潤:訳)
 角川ソフィア文庫:信長公記(奥野高広、岩沢愿彦 校注)
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 【キリのコメント23】 

 *このページは信長公記との違いや、さらに詳細な説明が書かれています。
  お時間に余裕がございましたら、ご覧ください。

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