| 銀嶺の果て 1947・東宝 |
|
![]() 製作:田中友幸 監督:谷口千吉 脚本:黒澤 明 撮影:瀬川順一 音楽:伊福部昭 出演:志村 喬 三船敏郎 小杉義男 河野秋武 若山セツ子 高堂国典 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
物語 新聞社の輪転機が回る。【銀行破り三人組み、長野県下に遁入。捜査本部、北アルプス山麓へ!】 ピストルを持った3人の犯人は冬の北アルプス方面に逃走した模様だ。鹿の湯から先は農林小屋、さらにスキー小屋があるがその先はプロの登山家でも困難な山だ。 鹿の湯の旅館に逃げてきた3人。野尻(志村 喬)、江島(三船敏郎)、高杉(小杉義男)だ。野尻は右手の指が欠損しており常に手袋をしている。旅館では客達が宴会に興じていた。「♪木曽のな〜あ、木曽の御嶽山はなんじゃらほい、夏でも〜寒い、よいよいよい♪」 3人は翌朝早く旅館を出た。雪の中に小屋を見つけそこで休息する。農林小屋だろう。追っ手が迫っているに違いないのでいつ3人が分散してもいいように野尻は銀行から奪った札束を3等分して分けた。 小屋を出た3人に犬の鳴き声が聞こえてきた。警察が追ってきたのに違いなかった。 地元の警官隊が犬を引き連れ追っていた。「めったなことがねえかぎりぶっ放しちゃいけねじ」 ピストルを発砲するとその音で雪崩が発生するからである。あたり一面の銀世界はその時を待っているように静まり返っている。 二人と離れ一番遅れている高杉は犬が吼えながら自分に向かって走ってくるのを見た。たまらず犬に向かってピストルを撃った。犬に当たったのかキャインと叫んで犬は走り去る。 その時だ!凄まじい轟音と共に雪崩が発生。「逃げろ!」警官隊は蜘蛛の子を散らすように走った。高杉は雪崩に飲まれた。 野尻が「可愛そうなことをした」と高杉の死を悲しむと、「もったいねえことした。あの札束」と江島は金のことしか頭にないのだった。 二人が更に雪原を登っていくと、スキーの滑った跡を見つけた。その跡をたどっていくと、どこからか音楽が聞こえてきた。 スキー小屋の中で老人(高堂国典)と孫の春坊(若山セツ子)、それに登山家の本田(河野秋武)がくつろいでいた。『懐かしきケンタッキーの我が家』のレコードをかけていた。 「おじい!人が来たずら!」 春坊が無邪気に言って外に出る。 「ヤッホー!」 春坊が手を降る。野尻と江島の二人はスキー小屋に暖かく迎えられた。老人の意向で酒が振舞われた。二人は雪崩と吹雪で当面足止めを食うことになりそうだった。ラジオは故障していて使えないという。 小屋の中に伝書鳩を飼っていた。地元との連絡に使うというのだ。 酔った本田と春坊は踊り始めた。老人は笑ってみている。野尻は微笑ましく眺めていた。ただ江島だけは不機嫌だった。 翌朝伝書鳩が死んでいた。泣く春坊。江島の仕業に違いない。野尻は江島を睨みつけたが黙っていた。 鳩の墓を作る本田と春坊。雪の中に埋めてやる。「チェッ、勿体ねえ。焼いて喰やいいのに」 江島が唾を吐いた。 風呂に春坊が入っている。熱くなりすぎた風呂に本田が雪やツララを入れてやっている。 「おう!この家じゃなにか、客よりうちのもんが先に入るしきたりか!」 江島が老人に文句を言った。老人は落ち着いていた。「山小屋ちゅうのはそういうところだ。薪一本くべねえ奴は一番後から入るだ」 江島はふてくされた。 「おじさん、なんだっていつも右手だけ手袋はめてるだ?」 春坊が聞く。「・・・いや、神経痛でな」 野尻は答える。春坊が蜂蜜を湯で薄めたものを茶碗に入れて野尻に渡した。「いい匂いずら?春になったような気持ちになるずら?」 「うん」 野尻は春坊が可愛くて仕方がない。 「俺にゃ生きてりゃ、丁度あれくらいの娘がいた・・・」 野尻が述懐する。「ヘッ、おめえさん、だんだんあの死んだおっさんに似てきたぜ」 と江島。「黙れ!おっさんの替わりにおめえがくたばりゃ良かったんだ」 二人はにらみ合った。 小屋の一階で『懐かしきケンタッキーの我が家』のレコードをかけている。 「俺はこの曲を聴いてるとガキの頃を思い出す」 野尻がしみじみと言うと江島が怒り出した。一階に降りていった江島が怒鳴る。「やめろ!俺はこんな歌は大嫌いなんだ!」 小屋の外で本田が雪山を眺めていると、江島が「案内しな」と近づいた。その手にピストルが握られている。「素人にゃ無理だ」と本田が答える。「素人も玄人もねえ!案内しねえとぶっ放すぜ!」 「何と言われても僕にはこんな乱暴な道案内はできない」 「割といい度胸だな、アンチャン」 その時、「ヤッホー」と春坊の声。 「おめえ、あの娘が可愛くねえのか、俺はどんなことでもする男だぜ」 脅迫する江島。 本田は野尻と江島の先頭に立って雪山を登っていく。江島の手にはピストルが光っている。3人の体をザイルで結ぶ。「チェ、縁起でもねえ」 江島がうそぶいた。「我々は一蓮托生ですね」 本田が笑いかける。 急斜面、野尻が足を滑らせる。ザイルを雪に突き刺したピッケルにからませ必死に持ち応える本田。ザイルがピンと張って野尻は助かった。 岩場を縦走して行く3人。やがて尾根に出る。眼下は一面の銀世界だ。最大の難関は垂直に切り立った断崖だ。本田が断崖の上に立つ。野尻と江島がザイルを頼りに登っていく。突然、江島が足を踏み外した。ザイルで繋がった江島と野尻が宙づりになった。本田は岩にザイルを巻き付け自分の腕に巻き付け必死に支える。 やがて二人はザイルをよじ登ってきた。本田はザイルを腕に巻きつけたまま倒れていた。「おい、どうしたんだ」 本田の腕の骨が折れているらしい。 「おい、急ごうぜ」 江島が急かす。「だってこんな怪我人を・・・」 野尻が本田を見た。「相手は登山の専門家だ。どうにでもなるさ。一人でもいくぜ、どうするんだ!」 「俺はそんな恩知らずの真似はできねえ」 「その札束を出しな」 江島がピストルを向けていった。 札束を江島に渡す野尻。江島はザイルまで取ろうとした。「こいつはやれねえ、こいつがなきゃ、俺達がおりられねえ」 とっさに野尻は江島のピストルを叩き落した。はずみで暴発した弾は本田の足を貫いた。 二人の格闘が開始される。上になり下になり、ピッケルを手にした江島が襲いかかる。突然、二人の足元の雪が崩れた。落下していく二人。またしても本田はザイルを岩に巻き付けた。ザイルを体に巻いていた野尻は助かり上がってきた。江島は札束と共に断崖を転落したのだ。 野尻は負傷した本田を背負って岩場を降りる。断崖の下で野尻は本田に煙草を吸わせてやった。本田のポケットのアルミのシガレットケースはぐにゃりと曲がっている。「満足なものは1本しかねえ」 二人で1本の煙草を吸いあった。 「本田さん、あんた、なんでああ何度も俺達を助けてくれたんだね?俺たちに脅迫されて山を登ったんじゃねえか。何であの時縄を切ってしまわなかったんだ」 「山の掟なんです」 本田が答える。「死んでもあのザイルは切れないんです。人間同士を結んだあの綱は死んでも切れないんです。僕はその掟に従っただけです」 野尻は涙を流さんばかりに感動していた。 野尻は本田を背負い山小屋にやって来た。ピストルは捨ててきた。山小屋の前で警官隊が待ち構えていた。 本田は腕を骨折していた。うな垂れて床に座る野尻に春坊が蜂蜜を茶碗に入れて野尻に差し出した。春坊が野尻に貰ったナイフを持っている。「使ってくれるかい、そのナイフ。こんな俺と分かっても・・・」 「おじさん、悪い人じゃねえってお爺が言ってた」 その老人は神妙な顔つきで黙っている。 「さあ、行くじ」 地元の警官が野尻を連行していく。本田が春坊にレコードをかけようと促した。雪原を行く野尻に『懐かしきケンタッキーの我が家』が聞こえてきた。山小屋の前で春坊が泣きながら手を振っていた。 |
| 映画館主から 2007年に95歳で亡くなった谷口千吉監督の処女作品。同時に三船敏郎のデビュー作でもあります。又、後年「ゴジラシリーズ」で知られる伊福部昭の映画音楽デビュー作です。 私は映画館でなく、最近DVDで初めて見たのですが、『新版』と銘打ってあるのは、オリジナルは少し違ったものだったかも分かりません。 脚本の黒澤明は谷口千吉と共に先輩監督の山本嘉次郎に助監督として従事した盟友です。三船が気に入った黒澤は「酔いどれ天使」(’48年)でヤクザ役で三船を起用し、以後「赤ひげ」(’65年)まで16本に亘り主役の座を与えるのです。 黒澤の脚本は今見れば多少稚拙な感じですが、主役の志村喬が悪人ながら山小屋の暖かい住人の人情に触れ人間性を取り戻していくというヒューマニスト黒澤らしい一面を覗かせています。 三船敏郎は何故か常に不機嫌な役ですが、それまでの日本映画男優になかったキャラクターが強烈な印象を残したのです。 冬の長野県北アルプスが舞台なだけに、信州弁は信州育ちの私には馴染み深いものでありました。 登山家を演じた河野秋武は当時の映画界で活躍した男優で「山椒太夫」(’54年、監督:溝口健二))でも重要な役割を演じていました。 春坊を演じた可愛らしい若山セツ子は谷口監督の二度目の妻となった人ですが離婚。監督はその後、八千草薫と再婚し95歳で亡くなるまで仲睦まじかったそうであります。 |
|
|